ご案内
バーチャル葬なら数千円で済む。
それに、(お墓を探し始めた頃は知らなかったけど)そもそも法律的には遺骨を自宅に置いても罪にはならないらしいから、それが一番安くすむ方法かもしれない。
形態が違えば、費用もさまざま。
だけど、義父の口から普通の「石のお墓」以外が出てくることはなかった。
わたしたちも、それぞれが希望する自然葬は個人の好みが分かれそうな「お墓」だから、何となく提案はできなかった。
その辺についても話し合いもなく、選択肢を吟味することなく、ノーマルな石塔のお墓にすることで、最初から何となく決まっていたのだ。
「じゃあ、とりあえず今度の日曜のお昼過ぎに」そういう風にお墓探しはスタートしようとしていた。
これが間違いの第一歩だった。
石のお墓でいいのか、ということから始めて、どういうところが経営する霊園がいいのか、宗教観はどうか。
そういうことを少しでも4人で話しあっておけば、全然違う展開になっていたかしれない。
お寺と民間の経営する霊園の違いを知っていれば、もっとスムーズにコトは運んだ。
でも、いきなり霊園を見ることからスタートしてしまった。
ウチの場合。
義父の方の家も、私たちの家も都心からある程度距離があって、周辺には霊園が割りとあるっていうことに、いざ探すとなるとわかった。
今まで気にしてなかったけどお墓の広告も意外に入ってくる。
そんな折込広告を頼りに、いくつかの霊園に行ってみよう、ということになった。
夏本番という感じの暑い日だった。
その日の午後、私たち夫婦がまずは義父の家に出向いた。
葬儀で何日か顔を合わせつづけたとはいえ、義父と会うと何を話せばいいのか、少しとまどう。
とりあえず、「いい天気になってよかったですね」くらいの会話をしながら義母の遺影に線香をあげる。
ここから義父の車で向かうことになり、いざ出発。
家を出る、前の3人は次々と車へ。
運転席にダンナ、助手席に義弟、後部座席に義父……ってことは、わたしは義父の隣にぃ?義父がわたしに向かって「こっち、こっち」と手招きしている。
《おわっこれから霊園までの時間、いったい何を話せばいいんだろう》こういう展開とわかっていれば「わたしは助手席」って、ダンナに言っておいたのに…。
でも、時すでに遅し。
パニックに陥りそうになるけど、そこは妙齢の女性。
グッとこらえて、にこやかな笑顔をつくって車に乗り込む。
《とりあえず、聞き役に回ろう》そう決めて。
車中では、わたしの実家の近況を聞かれたり、わたしが義父の近況を聞いたり、一応そんな会話が成立していた、と思う。
しかし、前の男性2人は、ちっとも会話に参加してこない。
《ダンナめ、わたしばかりに頼るナ、話を盛り上げんかい!》まったく、この兄弟は気が利かない。
だいたい今回のわたしの参加は「お墓見物」ぐらいの軽い気持ちなの。
主役はアンタたちでしょ!帰ったら、懲らしめなくちゃ。
最初は、近くのニュータウンにできたばかりの新しい霊園だ。
車が駐車場に入っていく。
会話からやっと解放されるかと思って、ホッとする。
車から降りた途端、ネクタイを締めたスーツ姿の男性が突進するようにこちらに向かってきた。
「お客様、どのチラシをご覧になってきましたか?」チラシは見たけど、どの、って何?後からだんだんわかってくるけど、ふつう霊園は何社かの石材店が入っていて(指定石材店という)、合同で広告を出し、来た順番にお客をふり分けているらしい。
だけど、この霊園は競争があって、石材店ごとに広告を出し、割引などの特典をそれぞれが付けていたのだ。
チラシは持ってこなかったので、「いえ、特に……」ってダンナが答えたら、「そうでございますか。
それではワタクシが案内を」と、満面の笑みを浮かべた。
霊園の方はきれいに整備され、芝生も植えられた洋風スタイル。
明るい雰囲気がある。
その後、エレベーター付き豪華3階建ての管理棟へ案内された。
次の霊園に向かう。
新聞広告に載っていたところで、ここからは車で1時間以上かかりそう。
1時間 席は最初と同じだった。
胃が痛くなりそう。
しかし、義父は、この男兄弟と話すよりは、こんなわたしとの方がいいのか、いろいろ話しかけてきてくれる。
内容はゼンゼン覚えてないけど、他愛もないことを話していた。
何もここまでって気がした。
結局、ダンナが住所、氏名を書かされたけど、車の中で、あんな変に豪華な施設は、ゆくゆく買った人の負担だよね?という話になる。
それでわたしたちのお墓巡りの第一歩となったこの「客引き墓地」はボツとなった。
「Jが京都で売ってる墓もいいんだけどね」ダンナが話していたとおりだ。
ちょっと興味があったので、「それは、いくら位するんですか?」って聞いてみた。
「確か、300万かな」そして、その京都にあるというお寺の場所を説明し始めた。
《まずい!何か火をつけてしまったかも》それに、今、ここでその京都にあるお墓の話を出すということは、選択肢の一つとして入れる、っていうこと?それは、マズい。
ウチには縁もゆかりもない場所だし、これから何年も、お参りの度に何万円もかかってしまう。
と、心では思っても、表情には出せないし、もちろん否定もできない、わたしには。
《なんとかして、ダンナ!》思いが通じたのか、前の席でダンナが言った。
「遠い所だと、お参りが大変だからね」それで、この話は終わった。
男性の会話は、こういう時ラクだ。
くどくど言わずにすむ。
そして、〈妙齢の女性〉は、どちらかを肯定も否定もせず、ミョウな笑いを浮かべていた。
車の外の景色はどんどん変わっていく。
ビルや高い建物は全然なくなって、木々の緑が目に舷しい。
道もだんだん狭くなってくる。
ずいぶん山奥だ。
やっと、今日2番目の目的地に着いた。
ここは、新聞広告に載っていた。
「ガーデニング墓地」首都圏で他にも何カ所か経営しているようだ。
最近できる霊園は「公園墓地」と呼ばれるタイプが多いけど、ここはお墓の間にバラの生垣をつくって売りにしている様だった。
霊園を案内する人(営業マン)がつき添っていたので、ここではハッキリそういうことは言えなかった。
ただ、なんとなく全員の表情でわかったような気がした。
そこを後にした車中で、やっぱり普通のタイプの方のお墓は高いし、合祁墓の方はもの足りないよね、という話になった。
もらったパンフレットには、その霊園で行われる年間イベント、芝やバラの手入れに費用がかかるのか、こちらは2倍。
何千円かの違い、とはいえ毎年払い続けることを考えると、どうなんだろう?18年目主婦の目は厳しい。
ここは、各家が個々に建てるお墓とは別に、夫婦1組ずつが入れるタイプのお墓もあった。
いわゆる「合祁墓」とか「永代供養墓」とよばれるもの。
ここでは、何組かの夫婦が一緒に入る、モニュメント形のお墓になっていた。
石のプレートに夫婦単位で名前が入れられるようになっている。
そのプレートの一つ一つは、広告を見て想像していたよりずっと小さかった。
入って数年つと、このプレートははずされ、遺骨は合祁されるらしい。
その分、お値段は手が届きそうな管理棟も洋風というかログハウスのような感じで、お酒落。
でもお値段のほうは、最初に見たところと同じ大きさのものが15倍くらいする。
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